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| 2004/2/19 |
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『ナボコフ自伝』
著 者:ウラジーミル・ナボコフ/大津栄一郎 出版社:晶文社
発行日:1979年05月 本体価格:2,600円
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誰にでも何度も読み返す愛読本があると思いますが、私の中で常に愛読本ベスト3に入ってるのが、『ロリータ』。本書は、その原作者ウラジミール・ナボコフの自伝です。煌めくような文章で丁寧に丹念に書かれた本書は、自伝というよりは自らの記憶を辿った短編小説集のような作品。・…本当に、久しぶりに「真に美しいもの」に触れました。そしてそんな体験ができたということ、それは本当にごくごく稀なことなので、とにかく嬉しくて思わず涙ぐんでしまった私です(笑)。でもそれほど素晴らしい本でした。ナボコフの他の文学作品に比べるとあまり知られていないのが、本当にもったいないくらいなのです。
ナボコフは、1899年、帝政ロシアの名門貴族の家に生まれました。幸せで満ち足りた少年時代、そしてロシア革命とヨーロッパでの亡命時代。本書は、ナチスから逃れるためにアメリカへ移住する、その直前までが書かれています。ちなみに彼はその後、アメリカの大学で教師をしつつ執筆活動を続け、1955年に発表した『ロリータ』で世界的名声を獲得。その後はスイスのモントルーにあるパレス・ホテル(五ツ星♪クラッシックで素晴らしいホテル!)に居を定め、1977年に亡くなっています。
本書の魅力のひとつが、美しく健康的なノスタルジー。例えば、彼が眠りにつくまでのおもちゃ代わりに、母親が宝石をひと山持って来て遊ばせてくれたこと。村人達から人気のあった父親がロシア式感謝の印として何度も胴上げされ、それが食堂の窓からまるで空に浮かんでいるかのように見えた、などというエピソードの数々。
それから、もうひとつの魅力が、痛烈なまでに徹底した知性とユーモア。ノーベル文学賞作家ブーニンとウマが合わず、「君はうんと苦しんで、まったくの孤独のなかで、死んで行くことだろう」と言われたこと。少年時代の家庭教師が、ナボコフに高級ホテルではなく安い下宿に泊まるべきだと説きながらも、自分は「蛸の形をした」高価なシャンデリアを欲しがったこと。蝶の研究から(ナボコフは蝶の研究者でもありました)、ダーウィンの「生存の競争など全くばかばかしい」と「闘争やあくせくした生活」を斬って捨てるくだりなど、ちょっとクスッと笑いながらも、何となくいつまでも頭から離れないエピソードたち。
「懸命な読者は天才の作品を心や頭で読まず、背骨で読む」。芸術としての文学を嗜好したナボコフは、『ヨーロッパ文学講義』の中でそんなことを言っていました。主人公と一体化して感情移入したり(心で読む)、一般化して何かの役に立てようとしたり(頭で読む)、というような読み方をとことん嫌ったナボコフ。私もできるだけ「背骨」で読むように心がけてみたつもりですが…、それが成功したかどうかは分かりませんが、久しぶりに「真に美しいもの」を味わう喜びを得ることができました。原文(英語)でも読んでみたいな〜と思いますが、私の力では挫折必至…。そうそう、本書の日本語訳は非常に素晴らしいものでした。こんなに上質な日本語でこの本を読めたことにも、心から感謝したいです!
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