音楽の世界ではカバーとかリミックスということは普通にたくさん行われています。それを小説の世界でもやってみようとダ・ヴィンチの創刊10周年出版として「村上春樹をトリビュートする」という大胆な企画から生まれた本書。同時に4作刊行されたのですが、そのうちのひとつです。
4作品『回転木馬のデッド・ヒートRMX』『ダンス・ダンス・ダンスRMX』『中国行きのスロウ・ボートRMX』『国境の南、太陽の西RMX』あるうちからとりあえずどの作品を読もうか迷ったのですが、本書を選んだ理由は作品タイトルからではなく、素樹文生氏の小説が読んでみたかったからです。短編が2編収録されていますが、原作とおなじテーマと読後感を意図してリミックスされた作品です。
お話は“主人公が誰かの話を聞く”という形で展開します。ひとつは耳にたくさんピアスの穴があいている女の子の話。彼女は高校生のころ有名な作家とつきあっていて、彼が小説の仕事にとりかかると長い間ほったらかされてしまい「寂しい!」の叫びを耳にピアスの穴を開けることで抗議していた過去があります。この気持ちなんとなく解ります。何かに夢中な人を好きになると実はツライんですよね。自分は絶対彼の中でプライオリティno.1になれなくて、そのno.1の対象がスポーツだったり、自分がステキだと思う仕事だったりすると「しょうがないよなぁ・・」と思うけれども・・やっぱり寂しいし。なにかしないと自分のなかで感情の統制がとれなくなってしまうんですよね。そんな「想い」はしたくはありませんが、大切な経験&感情だとも思います。そして彼女のその恋が終わったあとも耳のピアスの穴は残っていて「すてきな耳ですね」と言ってくれた人にこの話は語られます。あと味のいい作品です。
もうひとつはある雑誌編集者のお話。ホテルのラウンジでタバコを吸いながら「お話」は語られます。この作品のタイトルでもある「けむり」がとても上手にストーリーに絡んでいて面白い!と思わされました。特に編集者をけむりに例えた部分は見事です。
村上春樹の作品を素樹氏のフィルターを通すとこういう感じになるのか・・というところに興味をもって読んだこの作品。あとの3作品も読んでみるつもりです。この「トリビュート」がもっと文学の世界で流行ったら面白いかもしれませんね。よしもとばなながリミックスする村上春樹とか、村上春樹がリミックスする山田詠美とか読んでみたい気がします(笑)。 |