| <<前日の日記へ | 翌日の日記へ>> |
| 2003/7/4 |
 |
『自殺って言えなかった。』
著 者:自死遺児編集委員会/あしなが育英会 出版社:サンマーク出版
発行日:2002年11月 本体価格:1,300円
|
鎌田慧さんに『家族が自殺に追い込まれるとき』という本があります。昨年、文庫化されているので、手にとりやすい一冊かと思いますが、手にとったが最後、心に引き受けなくてはならないものの大きさに、いささか覚悟が必要となる渾身のルポルタージュです。主に仕事での重責や苦痛に耐えかねて、自殺することを選んだ働きざかりの男性たちと、残された家族についてのルポです。悲劇の形はさまざまですが、追いつめられて、死を選ぶしかなかった人々の心の軌跡をたどることの辛さ、そして残された人たちの心の痛みは一様で、かなり怯んでしまいます。いったい何が、彼らを追い込んだのか。『自動車絶望工場』以来の一貫した鎌田節だと思いますが、社会(会社)の持つ病理が、いかに人間を疎外し、個人を破壊してしまうのか。自分が壊れるまで、仕事をする必要がどこにあるのだろう。冷静に考えればわかることが、もはや、何もわからなくなってしまった。逃げ場がなく、どこにも光明を見出すことができなくなってしまった人間の深い絶望に胸が塞がります。そして、遺された人々の悲しみが胸に迫ります。『家族が自殺に追い込まれるとき』が、自殺した男性たちに焦点を当てたものであるのに対して、本書『自殺って言えなかった。』は、自殺により、親を亡くした子どもたちが記した手記集で、対をなすものと考えて良いかと思います。ルポライターの視点により書かれた本ではなく、子どもたちが自分自身で書いた手記には、拙劣な表現もありますが、それゆえにストレートな感情が表出されています。覚悟を決めて読んで欲しい一冊です。
親が自殺したということを他人に知られたらどう思われるのだろうか。親を自殺で亡くした子どもたちの心にある疑問。そして、自殺という死に方を選んでしまった親に対する羞恥。また、自分がどうしてあげていたら良かったのか、という後悔。自分もまた自殺という手段を選んでしまうのではないか、という不安。自殺者の遺児たちは、心にこうした重い碇を抱えて、自由になることができません。現在、年間三万人を越えるという自殺者、その遺された家族がどのような気持ちで過ごしているのか。この本には、沢山の悲しみが詰まっています。交通遺児の支援については、街頭での募金活動なども目にすることがありますが、自殺遺児については、これまであまり公に語られることがなかったのではないかと思われます。実際、「自分で勝手に死んだ」自殺者の遺児を支援するということについて快く思われない方たちがいることも確かです。それは、当の自殺者の遺児たちも感じていることで、親のことは誰にも言ってはいけない、世の中から隠れていなければならない、という思いこみを強くもっているのです。この本は、昨年、大きく話題となり新聞の社説や投書欄でもとりあげられていた記憶があります。社会の病理が数多くの自殺者を生みだしているという時代の趨勢に、警鐘を発する物と思われた方も多いと思いますが、これまで公の場で、誰とも語りあうことがないまま一人で抱えていた問題について、同じ境遇の方たちの共感できる言葉が集められたこの本に、心の荷物を降ろすことができた人たちが数多くいらっしゃったのだと想像しています。楽天ブックスに寄せられたこの本に対する感想でも、そうした思いを綴っていただいています(商品詳細ページをご覧ください)。自殺者の子どもであっても、強く、前を向いて生きていきたい。自殺者の家族だからこそ、人が生きていくことの本当の大切さを理解することができる。この本の表紙には、四人の少年たちがまっすぐに前を見つめる写真が使われています。この本に原稿を寄せている子どもたちです。自分の顔をここで公開しても良い、自分たちは誰かに恥じることなく、胸を張っていきていきたい、という決意が表明されています。死者を悼む深い悲しみだけではなく、これからを生きていく人たちを、生きていかなくてはならない人たちを、強く励ます力に溢れている本です。
背表紙裏に寄せられた井上英喜さん(十九歳)の言葉。『お父さん、今、ぼくを見てくれていますか。ぼくたちはこんなに大きくなりました。今まで見守ってくれてありがとう。ぼくは今でも、お父さんのことが大好きです』。本当は、生きているときに、抱きしめて、何度でも「大好き」と言わなければいけなかったのだと後悔をされている方が沢山いると思います。大切な人を、抱きしめて離さないようにしなくてはならない。そして、自分のことを少しでも思ってくれる人がいるのなら、その人の気持ちを考えるのなら、死んではいけない。そんなあたりまえで、とても大切なことが、飾らない言葉で書かれている本です。子どもたちが、自殺という親の弱さを引き受け、深い愛情を持って、心の中で再び慈しむことができるようになる。すべてを消化し、乗り越えていくことのできる、人の心の強さに、深い感銘を受ける一冊です。 |
|
【楽天ブックススタッフ 知】 |
|