「北村薫の『秋の花』はいいよ。」
この一言をあの時聞かなかったら、北村薫さんの小説と出逢うことはなかったかもしれません。もしこの楽しさを知らなかったら、加納朋子さんの本を読まなかったかもしれないし、北森鴻さん(そもそも本棚で隣にあったから読んでみたんだった)の小説に出逢うこともなかったかもしれない。。。そんな今の読書傾向の原点とも言えるところにある1冊がこちらです。
この本を読むまで、ミステリの中に出てくる「死」はいたってありきたりのモノでした。それが刺激的であればあるほど価値があるような気がしたりもしていたのも事実です。このお話の中で、ある若い命が奪われます。それも高校の文化祭の準備中という、ある意味で最も輝いていた瞬間に屋上からの落下というカタチで…死んでしまった津田さんと、片時も離れずに寄り添っていた友人の和泉さん。相棒を失った心は壊れそうになっていて、その死にもどうやら秘密があるらしいのです。そんな若い心を“私”と円紫さんが解き放ちます。その過程と、これを通して語られた死との向き合い方がものすごく大きな衝撃を私に与えてくれました。昔読んだ本だったのですけれどどうしてもこのコーナーに書いておきたかったので再び読み直してみました。そしてまたあらたな感動が呼び起こされています。
『スキップ』などの“時と人”のシリーズと同様、読み終わった時にすくっと真っ直ぐ前を見て歩き出したくなる…そんな空気を持った作品なのです。本当に不思議ですね、言葉のちからって…
さて、私事になりますが、この度人事異動がありまして、本日を持ってこの読書日記コーナーを引退することになりました。思えば、2001年のオープン以来営業日にして1日おきというペースではありましたが、ボチボチとなんとか書き続けさせていただきました。お客さまや著者の方、時には編集の方などの温かい励ましのお言葉に支えられて今この時を迎えさせていただいています。このコーナーのおかげで、人より一足早くゲラを読む事が出来たというラッキーな事もありました。「あの本に感動したんだったら、これも読んでみて。」という芋蔓式読書の案内をいただいたり、「面白いって言ってたけど、全然面白くなかった!」というお叱りを受けたことも…
私たちが目指してきた理想の書店はまだまだ完成型とは言えないし、本を読む楽しみをちゃんと伝えられたかと聞かれたら怪しいものがあるのだけれど、ここでの本に囲まれた日々は本当に楽しかったのです。
読書というのは多分技術ではないのだと思います。早く読むことが偉いわけではないし、沢山読むことに価値があるわけでもない。面白くない本を無理して読む必要もない。好きなものを好きなだけ読んで欲しいから、もっと沢山の本を好きになってもらえたら良いなぁと心から思えるようになりました。(もちろん本屋だから売上げが欲しいのも事実ですけどね)
私はこのコーナーから卒業しますが、読書日記そのものは他のスタッフたちが続けていくことになりました。今後ともより一層のご愛顧をよろしくお願いいたします。そして皆様にステキな本との出逢いがありますように! |