カーター・ディクスンは、ジョン・ディクスン・カーの別名義です。江戸川乱歩に絶賛され、現在でも日本の現代本格推理作家にファンが多いというカーター・ディクソン作品を読んでみようと思い立ったのは、何を隠そう、コリン・デクスターの本を探しに入った古本屋でたまたま彼の作品がなく、その近くにあった同じ色の背表紙の作品の中からぱっと目を引いたタイトルのものを買ってみた…というだけだったのでした(安直)。
女性作家マイナが催した、読心術師ペニイクを囲んでの夕食会に招待されたサーンダーズ博士は、はなから信用していなかったはずのペニイクに自らの心の内を言い当てられて動揺します。全ての招待客が謎の読心術師に対する疑心暗鬼に囚われる中、ペニイクの予言通りにマイナの夫が原因不明の死を遂げ、ペニイクは「テレフォース(念力)で彼を殺した」と宣言。遅れて到着したヘンリー・メリヴェール卿に、ペニイクは新たな殺人予告をします。そして第2の殺人が…。
ややネタバレになりますが、読後一番印象に残ったのは、「犯人の動機が全くわからない」という点でした。最後まで読んでもさっぱりわかりません。一番最後に殺される人に至っては、あまりに突然登場するので最初は誰だかすらわかりませんでした。遠隔殺人を念力で行う、という設定はかなりオカルト風味なのですが、フタをあけてみればどっちかというと「犯人、頑張ってるなぁ…」という感じで、その努力と度胸にはかぶとを脱ぐほかありません。
また、狂言回しとなるサーンダーズ博士の「気づかなさっぷり」も相当なものです。読者としては彼を中心に物事を見ているため、ヘンリー・メリヴェール卿が最終的に行った華麗な謎解きにただただ感嘆するのみでした。タイトル通り、まんまと欺かれた読者のひとりだったわけです。
余談ですが、このハヤカワ・ミステリ文庫版に掲載されているカーター・ディクスンのポートレートは、どこかの俳優さんみたいでダンディーなので、機会があればぜひ見てみて下さい。 |