月に一度講談社さんとは新刊会議というものをやっています。それでオフィスにお邪魔した際に“マークスの山発売まであと○○日!”という看板が掛かっていてこの大物さかげんにビックリしました。それ以前に早川書房から単行本で出ていたものを講談社文庫に入れる際に大幅改稿を行ったということも私たちにとってはビッグニュースだったのですが、読み比べた人の話を聞くと「全く別物」なのだそうです。それもビックリ。
高村さん本人がミステリーと呼ばれることを嫌ったとかそんな話を聞いた覚えがあります。確かに、犯罪の謎解きよりも追うもの追われるものの心理が巧みに描かれた小説です。登場人物が日本人だからすんなり読めたけど、『罪と罰』とかそういう古典文学を読んだ時に似た難解さを感じました。ストーリーを追うことに夢中になっていたので、もしかしたら気づかなかったのかもしれないのですが、どうもねぇマークスがよくわからんのです…(連続殺人犯の気持ちがよくわかるってのも問題ですけどね。)それから過去の犯罪を隠し続ける男達の確執ってのもどうものめり込めないんですよ。ただ、プロットとか、全体の話の運び方などはやはり見事という他はなくただただ息を呑むような時間が過ぎていきました。山に始まり山に収斂していくというこの小説を一言で言うような展開が無理なく進められていくのは美しいくらいですね。
『第三の時効』を読んだ後なので、同じ警察内部を描いたもの同士の比較も面白かったところです。両方とも男臭さが満載の設定ながら『マークスの山』の捜査陣の方はまるで汗の匂いや整髪料の匂いまでこちらに届いてきそう…多分合田刑事に共感を持つ方が多いのでしょうけど、私の心を掴んだのは検察の加納さん。あの飄々とした感じの中にある人間的な奥深さがたまりません。「ほんとにこんなに瞬時の判断が出来るのか!?」というようなスーパー警察官のやりとりのなかで、元義兄と合田の人間的なふれあいと生きることに悩む姿がとても新鮮でした。
直木賞受賞作、警察小説の金字塔、高村薫の代表作。なんていう看板の文字はついつい読者を身構えさせます。そして私も思いっきり身構えて読み始めてしまった一人です。しか〜し、弁護士の木村晋介さんはさらに弁護士的観点をもって突っ込みの嵐を入れています。その辺は本の雑誌4月号で読めますので手に取ってみてください。でもね、あり得ない設定のなかで物語を作って楽しいのが小説だと思うのですよ。そして現実世界にないものが楽しめるからこそ小説が読まれると思うのですよ。『半落ち』問題で業界が揺れる今日この頃しみじみそんなことを思っています。 |