| <<前日の日記へ | 翌日の日記へ>> |
| 2003/3/14 |
 |
『沈むさかな』
著 者:式田ティエン 出版社:宝島社
発行日:2003年03月 本体価格:1,600円
|
考えてみると、意外に二人称の小説って少ないものです。久しぶりにその二人称小説に触れたせいか、「きみ」という2文字にとまどいをおぼえました。これが「君」だったらちょっと違ったんでしょうけど。「えっ、この主人公は“きみ”って名前なのかしら…」と冗談のような勘違いをしていたんです。あーはずかしー。ところが、この二人称という視点が、この話の青春(成長?)小説的要素に思わぬほどの効果をもたらしてくれています。
10代後半の主人公は、あるきっかけから外の世界を知って飛び出していき、事件を通して生き方について悩み傷つきます。そういった一連の動きを、客観的な中にも柔らかさをもって語るのです。この視点はまさに成長を見守る“誰か”のもののよう。最後まで読んでみるとその効果もよくわかって、なるほどねぇ上手いことやったなぁと感心したポイントでした。
主人公のカズが、友人に導かれるままに父の死の真相を調べ、その過程ではじめたダイビングにより潜ること・泳ぐことに夢中になっていく…海の美しさを背景に置きながら、人間の愚かさや陰謀が明かされていくというミステリアスなストーリーでした。前後して『終戦のローレライ』を読んでいたので、そこで描かれる海のイメージと、こちらで感じさせられる海の質感の違いが興味深かったです。ま、もっとも、前者が死にものぐるいで海に生きているのに比べ、こちらは恵まれた時代の話だからなのでしょうけど…
一応説明しておくと、このお話は先頃話題になった「このミステリーがすごい!」大賞の優秀賞受賞作品です。その当時の作品に大幅に筆を入れての単行本化ということで、受賞時点で指摘されていた後半のオチの弱点が克服されて非常によいものに仕上がったとのことです。
確かに、物語の中盤から事件がどんどん複雑になっていって、一時期は「これは国際謀略ものなのかっ!?」と思わされるようなところも…本当に人物も事件もてんこ盛りなのです。盛り上がって盛り上がって、このまま行ってしまってちゃんと収拾をつけられるのか?と読み手が不安になるくらいでしたが、ちゃんと綺麗に着地が決まっていたので一安心。うーんでもちょびっと唐突感があったかな。
とにかく素晴らしいのが海の描写や、ダイビング中の水の動きです。それから人数が多いながら、表情がちゃんと書き分けられていた登場人物も良かったですね。次回は式田さんの書いた徹底したスポーツ青春小説を読んでみたいと思っている今日この頃です。これはぜひ、真夏にもう一度読み直したいですね。あ、場所が海辺だったり船の上だったりしたらほんとに最高。 |
|
【楽天ブックススタッフ 瑞】 |
|