| <<前日の日記へ | 翌日の日記へ>> |
| 2003/10/6 |
 |
『ミルクから逃げろ!』
著 者:マーティン・ミラー/村井智之 出版社:青山出版社
発行日:2002年04月 本体価格:1,600円
|
かなり昔になりますが、雑誌ポパイのインテリア特集で、ロンドンに住む青年(inタータンチェックの服)の部屋が掲載されていたことがあります。その部屋はイエローに塗られビーズの暖簾が掛かった、それはそれはポップでキッチュな部屋でしたが、何よりも驚いたのが彼のプロフィール。「職業:無職 収入:失業保険」と書いてあったことでした。東京だったらあり得ないですよね…。「イギリスって失業保険でこんなに充分暮らせるんだぁ!」と、思わず日本に生まれてしまったことを呪いそうになった私です。だけどそれってよく考えてみれば、失業者という身分を制度的に保護しているようなもので、それはつまり階級社会だってことも言えるんですよね。日本だって階級社会だと思いますが、一応タテマエでは平等ということになってます。頑張れば地位も得られる(ことにはなってます…)。でもイギリスでは、身分というものが制度として正当に堂々と存在して、それは良い悪いの問題じゃなくて、ただそこにある現実といいますか。
でも、そんなふうに他に何の選択肢もなく逃げ場もないからこそ、その状態をその場で何らかの形に昇華するしかない、という状況が生じてくるのかもしれないですよね。「貧しくて行き場の無い若者達の鬱屈した日常」がポップカルチャーとして正しく昇華しているものって、何といってもイギリスものが多いと思っていたのですが(『トレイン・スポッティング』しかり、映画『ロック・ストック・トゥ・スモーキング・バレルズ』(ちなみに監督はマドンナの旦那)しかり)、それはやっぱり偶然じゃないんだろうなぁ、と思った次第でした。
で、この『ミルクから逃げろ!』も、ポップでキッチュなイギリス下層階級の(笑)小説です。舞台は、ロンドンの中でも物騒な界隈。牛乳アレルギーのせいで肌ガサガサ&体調ボロボロの26歳男性(アメコミ狂)が主人公。その彼が、なぜか全英牛乳販売促進委員会から殺し屋を差し向けられ、それから逃れるためにあちこち駆け回り、沢山の人を巻き込んで……。というスラップスティック・コメディ。そのほか、ブラジル帰りの女殺し屋、超絶テクの中国人ゲーマー、王冠発掘に燃える考古学者、ドラッグ漬けのレズビアンカップル、霊能力を持った看護婦、売れないスーパーの店長夫婦、などなど漫画のようなヘンテコキャラクターが多数登場し、入り乱れ、一人称も三人称も交じり合い、ものすごいスピードで結末に爆走していくのですが……。最後はもう滅茶苦茶です、もちろん、良い意味で。
ちなみに私が本書を買った理由は、(1)タイトルがバカバカしくてポップだったから。(2)本の装丁が可愛くてポップだったから。それでもまだ買おうかどうしようか悩んでいたのですが、ついにレジまで持っていこうと決意するキメ手となったのが、(3)ミルク壜形の可愛くてポップなしおり(!)が付いていたことでした!完璧です!!そんなわけで、或るひとつの世界観をパーフェクトなまでに帯びたこの本のページをめくった途端、私は、イエローの壁にビーズ暖簾のかかったポップでキッチュなロンドンの部屋に住んでいるタータンチェック青年になりきっていたのでした。 |
|
【楽天ブックススタッフ 寺】 |
|