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| 2003/10/22 |
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『ビリー・ワイルダー自作自伝』
著 者:ヘルムート・カラゼク/瀬川裕司 出版社:文藝春秋
発行日:1996年01月 本体価格:3,398円
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「Nobody is perfect」完璧なヤツなんていない。この言葉で、映画『お熱いのがお好き』は幕を降ろします。私はこの映画を観て以来、この言葉を何度つぶやいてきたことでしょう! それまで私は、何かうまくいかないことがあると決まって「仕方がない」を口にしてきました。でも「仕方がない」の寂しげな響きに比べて、「Nobody is perfect」はなんて軽味があってイイ加減で開き直っているんだ!って思いませんか? 完璧なヤツなんていないんだからそれで充分いいんだ、と自分を肯定できるし、完璧なヤツなんていないんだから許してあげようよ、と他人にも優しくなれる。様々なシチュエーションで呪文のように効く言葉です!
そんな言葉に彩られた映画をたくさん作った人、それがビリー・ワイルダー。『麗しのサブリナ』『昼下りの情事』『七年目の浮気』『お熱いのがお好き』『アパートの鍵貸します』『サンセット大通り』……彼の代表作をちょっと挙げただけでも、映画好きの人なら大抵1つは観たことがあるはず。私はビデオとリバイバル上映で観ました。DVD-BOXも購入しました(自慢です笑)。そして先日、やっと彼の評伝『ビリー・ワイルダー自作自伝』を読みました。ワイルダーは1920年代の世界都市ベルリンで脚本家として名を挙げますが、ユダヤ系だったためにナチスの迫害を逃れて、ハリウッドに亡命。外交的な彼はたちまち英語をマスターして脚本家として引っ張りだことなり、やがて脚本家兼監督として評判を得るようになります。本書では、その生い立ちから映画作りのエピソードまでが、詳細に記されています。
この本の中で私が好きなエピソードは、当時神経衰弱だったマリリン・モンローと仕事をした時のエピソード。『お熱いのがお好き』の撮影中、マリリンは「バーボンはどこ?」が言えず、そのシーンを65回も撮り直すことになり、その度に彼女は泣く、その度に彼女を慰め、化粧を直す、その度に他の俳優は待機(この映画を知ってる方ならお分かりと思いますが、女装しハイヒールで演じなければならなかった男性俳優たちは精魂尽き果てていたそう…)。毎日遅刻、台詞は覚えない、周囲に八つ当たりし、撮影日数を超過させ、莫大な出費を余儀なくさせる…。でもワイルダーは『七年目の浮気』でマリリンを起用して、彼女によって生じるだろう問題を予想していた。それでも再びマリリンを起用したのは、作品を完璧にするためには何が必要なのか、ということを第一に考えていたからでしょう。
数々のエピソードから分るのは、ワイルダーがいかにパーフェクトな映画を目指していたかということ。そして彼の意図どおり、多くの作品たちはエレガントでロマンティックでユーモラスでシニカルで、本当にパーフェクト。パーフェクト過ぎるのが唯一の欠点なんでは?と思えるようなものばかりです。そんな完璧主義者ワイルダーの映画の中で最も有名な台詞が「Nobody is perfect」というのは、何だか可笑しいものです。そう思っていたら、実はこの台詞、ワイルダーの作じゃなかったのです。脚本の共同執筆者I.A.Lダイアモンドが間に合わせの案として思いついた台詞だそうで。
この台詞に関して、先ほどのマリリンとのエピソードに後日談があります。ワイルダーが死にそうな思いでマリリンとの撮影を終えた後のこと。マリリンの当時の夫アーサー・ミラー(高名な戯曲家。映画を軽蔑していたそうです…)から、あなたは彼女に酷い仕打ちをし彼女を侮辱した、など延々と書かれた電報が届いたそう。幾度かのやり取りの後、ワイルダーがミラーに送った最後の言葉は、「Nobody is perfect」でした。
さらにこの台詞に関連して、もう一つエピソードがあります。この台詞は、実は、夫婦喧嘩に関する当時よく知られていたジョークから引用したものだそうです。妻「あんたって完璧なバカね!」夫「完璧なヤツなんていないさ(Nobody is perfect)」……こんな下らないやりとりに人生の真髄が隠されているとは。人生って滑稽で可笑しくてなかなか悪くない! そう思った方は、今すぐワイルダーの『ねえ!キスしてよ(Kiss Me,Stupid)』をぜひ観てみて下さい! 夫婦間の愛情と夫婦外の愛情を描いた、意外に知られていないけれど物凄い名作。イチオシです! |
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