ずっと読みたかった作品が文庫になっていたので、夏休みのお供にしました。「やっぱり夏はホラーよね〜。」などと心の中でつぶやいて読み始めたのですが、読み終わったときに後悔。といっても面白くなかったわけではないんですよ、閉塞された空間・限定された場所の中で起きる出来事を書いたら恩田陸はすごいと思えます。私の後悔は読後、口の中に残るザラザラ感なのです。ホラーとしてはあんまり怖くなかったけど、こうやって生理的嫌悪感を残しているということですでに恐怖を与えられてるんでしょうかね。
〈ここから先、ネタバレを含みます。未読の方はご注意下さい〉
舞台は九州の水郷都市・箭納倉(やなくら)。・・言うまでもなく柳川がモデルです。堀割が発達したこの町で、失踪事件が相次ぎます。消えたのはいずれも堀割に面した日本家屋に住む老女なのですが、数週間たつとひょっこり戻ってくるという共通点を持っています。さらに彼女たちは行方不明期間の記憶を喪失しているのです。この事件に元大学教授の協一郎、レコード会社のプロデューサーをやっている多聞などが興味をもち調査を始めたところ、彼らが人間ではないことが浮かび上がってきます。
読んでいる間、ずっと何かと似ているなぁと思っていたのですがようやくわかりました。小野不由美さんの『屍鬼』です。じわじわと、でもはっきりと村を覆い尽くす死の影。住民と入れ替わっていく屍鬼たち…。人間もどきの増加はこのストーリーとちょっと似ています。でも、ゾンビを恐れ対抗しようというあの小説の主人公たちに比べるとこっちの人たちはどうも。。。「攫われても戻ってこれるのなら自分でない部分が増えてもいいか。」とか「みんな人間もどきになっちゃったんだから、私も仲間に入っちゃった方が楽なんじゃぁ・・・。」とか何処かミイラ取りがミイラになることを望んでいる色が強いのです。これじゃ困ります。読者は誰を応援したらいいのか分かりません。
究極は「本当に僕は本物の人間なのか?」という疑問。この話はホラーというより自分探しの物語なのかもしれませんね。こういう内面に話が及んでしまった結果、結末は極めて曖昧なものになっています。それが良いことなのか悪いことなのかはぜひとも読んでみて判断して欲しいのですが、だからこそセピア色の郷愁と夢の中にいるような浮遊感が与えられているのではないかと私は思うのです。
柳川の川下りをしたことがあったので、余計楽しめました。あの独特の時間の流れ、水の流れがよく表現されているなぁと感心してます。これだから恩田陸って好きなんです。しかしながら、逆にこの本を読んでから川下りをすると怖い思いをするかもしれないのでそれだけはご注意下さい。 |