今年は「イナジュン」の地位を、すっかり稲本潤一に奪われたかっこうの稲川淳二。それでも日本の夏に欠かせない存在であることには変わりありません。季語にでもすればいいのにとすら思います。どう使っても字あまりな感じですけど。
この本は、最近行ったとある病院の待合室の本棚にありました。長い時間待たなければならないのに何も読むものを持っていなかったため、なんかないかなと見にいったら、子供向けの絵本などに混じって、カバーもとれてくたびれたかんじでつっこんでありました。数編の短編の怖い話がそれぞれちがう漫画家によって描かれていて、稲川淳二の語りが聞こえてきそうでした。内容が怖いというより、こんな本がこんなところにあるということのほうが問題な気がしました。そういえば、小学生のときに友達のつきあいで行った歯科医院の待合室に『エコエコアザラク』があって、友達が帰っちゃってもずっと読んでいてすごく迷惑がられた覚えがあります。子供はけっこう怖いもの好きです。
怖い話というのは、聞くときのシュチュエーションによって怖さ度が違います。一番怖いのは誰かの実体験のときです。やはり当事者から聞く臨場感に勝るものはありません。稲川淳二の語りを聞いて、怖いと思って他の人に話しても全然怖がってもらえないのはこのためです。いつかある友達が桜金造が怖い話をしていたというので聞いてみると「だれもいないと思ったら、隙間に幅3ミリの女がいた」という話で、大笑いしてしまいましたが、金造本人から聞けばおそらく怖いのでしょう。
稲川淳二のしゃべりは、ちょっと早口で時々何を言っているのかわからないことがあってあまり上手とは思えないのですが、何よりそのネタの多さには圧倒されます。
今年の6月、惜しくも亡くなられたナンシー関さんの『〈ナンシー関〉のすっとこ人名辞典』に「一番怖いのはこんなにたくさんの怖い話を知っている稲川淳二」とありましたが、まさにそんな感じです。 |