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読書日記 2004年3月31日更新
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2002/5/8
『蜻蛉始末』

著 者:北森鴻
出版社:文藝春秋
発行日:2001年06月
本体価格:1,857円
北森鴻+歴史ミステリといえば先だって読んだ『共犯マジック』が思い出されます。昭和の犯罪史をトリッキーに描いたこの作品と比べてみると、この『蜻蛉始末』は驚くほどストレートな歴史物です。素直な気持ちで読み入ってしまったがために、虚実の区別が未だにわかりません。(ただ単に歴史知識がないだけかもしれませんが)

主題は“藤田組贋札事件”という有名な事件だそうです。今をときめく政商、藤田傳三郎が贋札作りのかどで投獄されるのですが、本人には全くその覚えはありません。とにかくその贋札は信じられないほどの精度で出来ていて、唯一の見分ける方法はトンボの足の数が一本足りないということのみ。その噂を聞いたとき、傳三郎の脳裏には生涯を彼の守り役として過ごした蜻蛉(とんぼ)こと宇三郎の姿が浮かぶのです。とにかく色々な思惑と糸が絡み合っている物語なので、ここで簡単に説明するのは困難を極めます。基本的には藤田組(のちの藤田観光)を作りあげた藤田傳三郎の自伝となっていて、彼の成功を光だとすれば生涯を傳三郎を思慕することで過ごした宇三郎の生涯は陰です。そして傳三郎のような商人の財をあてにして、自らの成功と戦略の糧にしていく明治の大物たち(伊藤博文とか、高杉晋作とか、山県有朋とか)が絡むことで、二人の生涯が歴史の糸の中に絡められていく様が見事でした。

「歴史とは人の人生が糸のように絡み合って出来ているものなのだ」と社会の先生が言っていたのをあらためて思い出しています。維新の頃というのは何となく日本全体が微熱に覆われていたような感じだったんでしょうかね?「日本を変えてやる!」という熱い想いと「そこで一儲けしてやる!」という腹黒さが渦巻いていたんじゃないかと。北森作品の中ではモノトーンの景色の中で大義を行うために蠢く人たちが目に浮かぶようでした。モノトーンと書きましたが、とにかく小説のイメージは暗い部類に入ります。特に最初の頃は宇三郎の暗さが鼻について読みすすめるのが嫌になるくらいでした。最後は感動の種になりましたけど。

でも、やっぱり新しいことを成し遂げようとする人たちってエネルギーというか明るさがあるんですよね。それは夢なのかもしれないし、希望なのかもしれないし、よくわからないけれどどこか人を惹きつけるもののようです。傳三郎もそういうオーラをまとっていたから宇三郎を惹きつけ続けたし、大きな商売を成功させる事になったのでしょう。商売の面白さに目覚めていく傳三郎を見ていると、こちらも商売人の血がふつふつと反応し始めました。

とにかく、これは歴史小説です。ミステリだと思って敬遠している方、ぜひ一度手にお取り下さい。
【楽天ブックススタッフ 瑞】


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