自分が死んだ後、何に生まれ変わるかということを考えることはあまりなくとも、何か(誰か)の生まれ変わりではないかということは何度か考えました。半分は「超有名人の生まれ変わりだったらすごそう!」という憧れも含まれているのですけれど、今回の主人公である万由子のケースのように「あなたは母の生まれ変わりなんです。」などと唐突に近親者に押し掛けられたら驚きを飛び越えて恐怖を感じるでしょうね。
万由子の中に眠る記憶は二十五年前に殺された天才画家、高槻倫子のものだと思われました。それが発覚したのは倫子の遺作展の会場の中で、彼女が殺される瞬間の強烈な既視感に襲われて失神したことからでした。万由子の脳裏に広がったハサミの映像の通り、倫子はハサミでもって殺されていたのです。さらに倫子が持っていた「見える」という特殊な能力をも万由子は受け継いでいます。それ以降、万由子は倫子の記憶に悩まされるようになり、倫子の息子である秒と、上司である泰山先生、幼なじみの俊太郎(あんまり活躍しなかったけど)とともに当時の事件の真相究明に動き出すのです。
読み終わった今は、ファンタジー色が強いホラーミステリーと括るのが一番近いのだと思っています。でも恩田さんは毎度毎度様々な作風に取り組んでいらっしゃるので、あんまり固定観念にしばられずに物語を追った方が良いのだろうなと考えて、犯人探しに頭を使うことなく淡々と読み進みました。後半泰山先生が探偵役としてきちんと席に着いたあたりで突如謎解き色が濃くなります。指さされた犯人はあまり意外ではありませんでしたが、倫子が万由子に生まれ変わったわけのほうは驚愕の真実。(余談ですが、博識家の泰山先生がとてもいいキャラでした。今回あまり出番のなかった俊太郎とともにシリーズで頑張ってくれないかなぁ…)ですが、『光の帝国』好きの私にとっては、謎解きへ収束するより「見える」能力のことをもっと徹底的に描いてくれた方が嬉しかったのだろうと思います。さらには「実は万由子は常野の出身だった…」などというオチがついちゃったりして・・ほんの希望ですが。
ところで、この本は祥伝社で出ているバージョンもあってこちらもまだ入手可能です。私が読んだ新潮文庫バージョンでは貴志祐介さんが解説を書いて、酒井駒子さんが表紙を手掛けています。物語の根幹に流れるなんとも言い難い狂気を感じられるいい絵です。 |