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| 2002/1/29 |
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『水曜の朝、午前三時』
著 者:蓮見圭一 出版社:新潮社
発行日:2001年11月 本体価格:1,400円
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久しぶりに、読書日記が書けなくて悩みました。この本を読んで伝えたいこと、語り合いたいことは山のようにあるのですが、それを語ってしまったらきっと物語の核心部分を突いてしまう気がするのです。
誰もがきっと「もし、あの人との人生を選んでいたら・・・」という想いを抱くものでしょう。そしてまたこの登場人物たちもそういう想いを抱いて生きているのです。脳腫瘍で亡くなった四条直美という女性がいます。彼女は名のしれた翻訳家であり、詩人でした。そして死の寸前に自らの人生を吹き込んだテープを娘に贈るのです。テープを文章に起こす作業をしたのは娘(葉子)の幼なじみであり、現在の夫。そして昔からの直美の不良ぶりを知っていた僕でした。彼の視線が物語全体を上手くまとめているのですが、追憶の仕方が本当に心地よいのです。直美が駆け抜けた時代(小説の主な舞台)は1970年代、大阪万博です。まだ旧来の考え方が家庭には根強く残り、そして新しい時代を見ながら熱に浮かされている。そんな空気が感じられました。70年代に青春を過ごした人にはこのあたりは非常に苦く蘇るのではないでしょうか?
直美は大阪万博のコンパニオンとして働くことで、自分を家から解放します。そして同時期に臼井という男を愛すようになるのでした。何万人もの人の中から「この人だ」と思ったというくらいの熱烈な出会いをした直美は、想いを遂げ彼とつきあうようになります。将来も見据えたその時、彼の大きな秘密が明らかになります。あの時代だから、あの家柄だからこそ、その秘密を前にして臼井の目の前から逃げ出さなくてはならなかった直美。ちょっと唐突じゃないかとも思えましたが、後半その想いが大きくのしかかってきました。
ちょっともの足りなかったのは、翻訳家・詩人としての直美の顔が見えなかった所。語り手をつとめる“僕”が見た直美は非常に奔放で、素敵な女性だったので、もうちょっと活躍していた頃の直美を読みたかったかなぁと思います。覆面作家の作品であることで、話題になった作品でしたが、評判どおりの良い空気を持った物語でした。
たとえ愛し合っていても共には生きられない2人。しかし、別れてもなお身を焦がすような想いは途切れません。もしかしたらあり得たかもしれないもうひとつの人生。叶えられなかった想いは、冬の京都で一瞬だけ遂げられていたのかもしれませんね。人生は宝探しのようなもの。そんな直美の言葉が胸に響きます。ほろ苦い思い出を抱えて生きている人も、目の前にある選択肢で悩む人もこれを読んでみて下さい。とても素敵な恋愛小説です。
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