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| 2002/1/17 |
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『風の耳朶』
著 者:灰谷健次郎 出版社:理論社
発行日:2001/12 本体価格:1,600円
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人の薦めで読んだため、読む前から泣けることはわかっていました。ある人などは「灰谷健次郎って聞いただけで涙が出てきそうだよ。」なんて事を言っています。しかし、よりによって一番泣けるシーンの時に、電車の中にいたのです。涙をこらえたら今度は鼻水が出てしまって本当に参りました。
ハルさんと藤三は仲のいい老夫婦です。ある決心を抱えて旅に出た二人は旧友の家族と交流を深めたり、級友の薫平ちゃんに連れられて東京の雑踏を歩いたり、そんな時間を過ごします。食べ放題の焼き肉屋さんに入って「こんなの子どもの教育に良くない」と憤慨し、渋谷をあるいて今どきの女の子と交流をしてちょっと見方をあらためて…と老人二人の好奇心と一本通った筋はたいしたものです。前半はこうやって社会に対する厳しい目が披露されていくのですが、後半ぐっといのちの重みが増してきます。
ハルと藤三は上田の別所温泉を訪ね、無言館では散っていった命たちに想いをはせます。ここは二人が婚前旅行したという思い出の場所でそんな若かりし頃の時を思い出し、足は良寛の足跡を訪ね新潟へと向かいます。総じて景色を背景に老夫婦が語り合うという小説なので、大きな波は感じられません。しかし、さざ波がずっとずっと心のひだをくすぐり続け、いつしか涙が浮かんでくるという不思議な空気があります。お互いをいたわり合う姿には憧れすら感じますが、そんな二人にも若い頃には他の人に心を奪われた時期があった…というエピソードがさりげなく差し込まれるところがまた人間味を感じさせる隠し味でした。
紆余曲折あって、沢山の時間を一緒に過ごしたからこそお互いを大切に出来る。ちょっとクサイけれどそんな事をしみじみ思わされています。なにより登場人物たちの想いがとても素直で、柔らかい言葉によって伝えられているところが非常に感動を誘いました。こう生きたいものです。 |
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【楽天ブックススタッフ 瑞】 |
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