この文章を初めて読んだのは、私が高校生の時でした。夏休みだというのに、クーラーもかからない教室で、駿台の国語の模擬試験を受けていたある日、その試験の小説分野に、この文章の一部が出題されていたのです。
私は試験のときは、「この文章のすべてを読み尽くす!」という気持ちで読んでいたので、ことさら、文章に感情移入してしまいがちでしたが、この本は中でも印象深い一冊です。文字でここまで映像が浮かび上がるのか、人の感情が表現できるのかと文学を改めて見直しました。出題されていた部分は本の一番の山場で、人間のぎりぎりの感情がうまく描かれて、情景描写も怖いほどのリアルさで迫ってくるのを感じました。
戦争で父親は帰らぬ人となり、二人取り残された母と子。母親は二人で生きていくことがつらいといい、田舎の親戚に一緒に暮らしたいという手紙を出す。しかし、戦後でだれしもが苦しい生活を強いられている中、親戚からは芳しくない返事が来る。母親はその旨を子に伝えるが、まだ小さな子供はその真の意味が理解できない。楽観的に「東北のほうでもいって、二人で暮らせばいいじゃないか、寒くても大丈夫だよ。」と母親を励ます子供。そんな子に「何もわかってないのね。」という母。絶望する母親、何もわからない子供。戦争が終わり、すべてを失った母親はあることを考えていた。
この本は試験を受けてからも、とても気になったので、全部読みたいと図書館に借りに行ったことを覚えています。全文も割と短く、だれでも気軽に読みやすいと思います。えらく凄い文だなと思ったら、芥川賞受賞作品でした。みなさんもぜひ、読んでみてください。ただ読むときは、一人で思いっきり世界に入ってからやってください。
ちなみにテストは文章に夢中になりすぎて、冷静に選択肢を選べず、散々でした。 |