天童真を知らなくとも、映画『大誘拐』をご存じの方は多いかと思います。ま、かくいう私もそうでした。本の師匠Iさんが「天童真はいいぞぉ〜」といつものごとく横をさりげなく通っていったときには私のアタマの中は「???」っていう感じでしたから。
ミステリを分類するようなおこがましい真似は出来ないのですが、天童さんの小説は本格的なトリックが駆使されている上にユーモアに富んでいるというものがほとんど、北村薫ファンの私を唸らせる小説ばかりです。(年齢と世代を考えると天童さんのほうが先駆者でしょうが・・)
で、今回の話は・・真名部警部が脳性マヒの少年、信一くんと出会ったところから始まります。魅力的なお母さん咲子さんへのほんのちょっとの下心もあって、信一くんの家に通い始めた警部はあるきっかけから何気なく抱えている難事件の話をします。それを聞いた信一くんはたちどころに真相に気付くという知性と洞察を見せ、ここで安楽椅子探偵ならぬ、車椅子探偵の誕生となるのです。
ミステリとしての面白さは折り紙付きなので置いておいて、この小説の特殊性はやはり車椅子にのった障害者を探偵役に据えたことでしょう。この作品が書かれたのが1976年、今から四半世紀前になります。今ですら外出が困難だといわれる車椅子の生活がいかに大変だったか、障害者への社会の対応がどんなものだったのか、そういう描写が非常に心に残っています。また、天童さんの思いが真名部警部の口を通して語られるところなどは思わずうなずきながら読んでしまいました。
社会風俗を写真で記録してあるもの、映像で記録してあるものはよくありますが、等身大の言葉で語られている小説としても非常に面白く読めます。今は当然に利用されている機械がものすごい珍しい商品として語られていたり。イマドキの死語が当時のトレンドだったり。
そんな天童さんの小説は推理小説全集として、それも廉価な文庫版で手に入れることが出来ます。むごい事件が題材ながら人に対する優しい眼差しを感じずにはいられません。じっくり心に染み入ります・・ |