実はこの作品を読むのは2回目になります(以前は単行本で読んだのです)。前回はストーリーを追うことばかりに夢中だったのですが、今回は言い回しも含めてじっくり堪能できました。こうなると宮部みゆきの上手さがよくわかりますね。それも犬が一人称で語るものがたり、読めば読むほど面白さが浮かび上がってきます。
たとえばこんな言い回し。
「その瞬間、俺は神様が俺の世界をベタで塗りつぶしてくれたらと願ったものだよ。」
犬のマサが絶望を感じたときのこのセリフ。なるほどなと唸ってしまう表現ですね。いやはや・・探偵役に動物が使われているお話となると「三毛猫ホームズ」を思い出しますが、マサはホームズよりずっと雄弁です。元警察犬で探偵事務所にもらわれて来たマサですから、賢いし捜査のノウハウもわかっている。そしてもちろん人間よりずっと鼻が利くし、時には近所の犬から情報をもらったり。(そうはいっても言葉が通じないからマサはいつもやきもきしてるんですよね)
探偵事務所には所長と年頃の娘がふたり、マサが溺愛する加代ちゃんと糸ちゃんという娘さんがいます。糸ちゃんの朝帰りには気を揉んだり、近づく男に意地悪してみたり、優秀な探偵犬は相当お茶目でもあります。こんなほんわかしたムードで語られる事件(5件)ですが、事件の中身は非常にシビアです。人生ってほろ苦いなぁ・・探偵が主人公ということで法による裁きを結論にしていないところもポイントでした。
動物のやわらかなさわりごごちまで伝わって来そうな臨場感のあるお話でした。愉快な蓮見探偵事務所の一員になったみたいな感じで楽しめます。そうそう、これは『パーフェクト・ブルー』の続編に当たるので、こちらから読んだほうがより面白いかも。 |