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| 2001/4/9 |
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『ムーン・パレス』
著 者:ポール・オースター 出版社:新潮社
発行日:1994/03 本体価格:2,300円
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人類が始めて月を歩いた春、愛する伯父を失い天涯孤独になった「ぼく」は絶望のあまり社会とのつながりを一切放棄してしまう。伯父の宝物だった蔵書コレクションをひたすら読むだけの毎日。やがて蓄えも尽き、アパートも追い出され、落ちていく一方に見えたところに救いの手が差し伸べられる。
オースターはニューヨーク三部作(シティ・オヴ・グラス、幽霊たち、鍵のかかった部屋)のような漠然とした不安や焦燥感をテーマにした、とらえどころのないものを書く人というイメージをもっていましたが、この作品は最後まで力強い希望に満ちています。著者自身の学生時代をモチーフにしたと思われるリアルな描写(極貧生活の部分がとくに)と後半の寓話的な急展開。いつもどこか自虐的なユーモアがちりばめられていて、主人公マーコ・フォッグが情けなければ情けないほどひきこまれます。私が一番ぐっとくるのはマーコがコロンビアに入学したときにビクター伯父さんがくれた一張羅のツイードのスーツをぼろぼろになっても着ていたというエピソードです。学生たちにはインテリ変人というレッテルを貼られて、自も好んでとんがったキャラクターに徹していながら、本当はスーツはほかにどこにも家がなかった「僕」にとっての唯一の心の拠り所であり、これを着なければ体がばらばらになってしまう、「人生の殴打から守ってくれる第二の皮膚」だったのです。こんなひと、キティ・ウーでなくてもほっとけないでしょう。
タイトルのムーン・パレスというのは実際にコロンビア大学の近くにあったという中華料理店です。(マーコはここで「最後の晩餐」とかいって有り金を使い果たしたりします。)「偶然」のつながりの中に、要所要所で顔を出す「月」のモチーフが逆になにか法則性というか、運命的なものを暗示しているようです。後半部分は冒頭で月にまで旗を立ててしまったアメリカ人のフロンティアスピリットのルーツを辿るような壮大な展開ですが、そこでもまた、月があらわれます。
いろんなとらえ方ができる作品ですが、一番の魅力はマーコのキャラクターにあります。誰でもおぼえがある、思いだすだけで赤面してしまうような若さゆえの空回りぐあいがなんともいえません。映画「スモーク」が刺さった人ならきっと気に入ると思います。
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