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| 2001/3/6 |
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『薔薇盗人』
著 者:浅田次郎 出版社:新潮社
発行日:2000/8 本体価格:1,500円
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巧い!と思わず唸らずにはいられませんでした。内容情報を見たら“短編の第一人者”と書いてありましたが、驚いたのは短編のテクニックです。中身は6篇が入っていて【あじさい心中】【死に賃】【奈落】【佳人】【ひなまつり】【薔薇盗人】と、なっています。すべてに技巧が感じられるのですが、中でも【奈落】【薔薇盗人】の2つが心に強く残っています。【奈落】は入社当時バリバリのやり手でならしていた総務課長代理が、エレベーターの事故により落下死するところから始まります。ところが話のすべてが会話で成立。最初はOL同士の噂話から、課長。そして同期入社の役員の会話になって、会長と社長の会話…と続いています。さえない人間だと思われていた総務課長代理の真の姿が次第に明らかになっていく。それとともに、残された人間の疑心暗鬼が広がっていく様は見事としか言えません。
【薔薇盗人】のほうはところかわって、少年が船乗りの父親に寄せる手紙が綴られていきます。少年が深い意図を持たずに書いている日常の状況から、大人たちの秘め事が明らかになっていくところが非常に面白かったです。こういう文章を読んでいると、自分の文章の無駄の多さに辟易してしまいます。でも浅田さんの文章って長いものになっても全く飽きさせないんですよね。回りくどくないし、泣かせどころが必ずあるし。【死に賃】は安楽死商法を巡るお話でした。大企業の会長が自分の死を楽なものにするためにいくらお金を払うのか?というお話。簡単な詐欺の話と思いきや、ちょっとした情景の描写が美しくって感激しました。
読んでいる最中にふと、宮部みゆきさんの『長い長い殺人』を思い浮かべました。これは財布が持ち主とその行動を語るという衝撃的な小説だったの
ですが、短いながらも今回の収録作品もそのレベルの驚きをいっぱい与えてくれています。ミステリーの技巧的な「やられた」とちょっと違った感動があちらこちらに盛り込まれていて、時のたつのを忘れて読んでしまいました。疲れた心にしみ入る一作です。 |
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【楽天ブックススタッフ 瑞】 |
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