怪異な意匠を象った玉座に座る若き異形の王。その乳白色の髪は肩まで垂れ、憂いに沈んだ瞳は深紅の色をたたえる。袖口から覗く、骨のように細く白い指にはアクトリアスの石のついた指輪。己の肌の色と同じ白い毛皮の外套を身にまとう、物憂げな痩身の皇子エルリック。この物語の主人公を写した天野喜孝氏の壮麗な装画に誘われて、いざ剣と魔法のアナザーワールドへ!。本書は、ムアコックの代表シリーズ、エルリック・サーガの開幕編。エルリックは、コナン(名探偵でも、未来少年でもなく)以降のヒロイック・ファンタジーを代表する主人公でありながら、壮健な肉体を持たない理知的な「精神派」ヒーロー。ファンタジー慣れしていない私が、楽しめたのも、そのあたりが要因でしょうか。『SFハンドブック』のムアコック作品の紹介に興味をひかれ、いつかはと思っていたのですが、ようやく読み始めることができました。通勤時間に、つかの間の異世界を堪能。いや、なかなか現実に戻ってこれなくて困ったものです。
一万年にわたり世界を支配してきた竜の島、メルニボネ。かつては光の帝国と呼ばれたこの国も、衰退の一途をたどっていた。四百八十代目の王エルリックは、魔術と薬(ポーション)とでやっとのこと命脈を保っている脆弱な存在。読書を糧として成長したこの皇子は、歴代のどの王よりも強い魔術の力を得ていたものの、残酷と狡猾を以って尊しとなすメルニボネ人に似合わぬ、深い考えをも身につけていた。従兄弟の皇子イイルクーンは、覇道を進もうとしないエルリックを帝国の統治者として認められず、その王座を奪わんと反逆を試みる。恋人サイモリルを連れ去ったイイルクーンを追うために、<混沌の神>アリオッチを召還するエルリック。ルーン文字が刻まれた魔剣ストームブリンガーを携え、双子の剣モーンブレイドを持つイイルクーンと激しい剣戟を交える。果たしてエルリックは、この意志を持つ魔剣の力を操ることはできるのか…。と、コテコテの冒険物語は続くものの、まだまだシリーズ開幕編。魔剣の力によって漲る生命力を得たエルリック、この後、彼の前に、どのような冒険が待ちうけているのか、先は長い(笑)。シリーズ全巻、読みきれるかな。
優美で神秘的な麗人エルリック、そのキャラクター造形もさることながら、古えの儀式、竜、魔法、神の召還、精霊、ルーン文字、魔剣…神秘性を持つ言葉のひとつひとつが、この異世界を、より幻惑的に盛り上げる隠喩となっています。これまで、本格的なファンタジーを読んだことがなくとも、『ファイナルファンタジー』などのRPGで、換骨奪胎された幻想の世界に心酔されている方なら、こうした原典への回帰も楽しめるのでは(もはや何が原典かわからないほどに、集積された「想像の文化遺産」ではないかと思いますが)。ついでのオススメですが、ボルヘスの『幻獣辞典』(新版になってますね)は、ファンタジー世界の生物を集大成したもの。バハムート、ギルガメッシュ、ア・バオ・ア・クーなどお馴染みの面々(か、どうか)。人間は、想像の中で、こんなにも世界を広げることができるのか、という驚きに満ちた一冊です。ファンタジー系RPG世界のガイドとしても楽しめるかと思いますので、小説が苦手な方も是非。 |