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| 2001/10/11 |
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『夜啼きの森』
著 者:岩井志麻子 出版社:角川書店
発行日:2001/06 本体価格:1,500円
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岩井さん初の標準語小説『邪悪な花鳥風月』も読んだのですが、やっぱり岡山弁で語られる物語の怖さにはかなわない気がしました。『夜啼きの森』で描かれるのはたとえようのない暗さと、貧乏の匂い、夜這いが残す男女の淫靡な薫りです。
実はこの小説はかの有名な“津山30人殺し”が下敷きになっているそうです。私は知らずに読んで最後の最後で気がつきました。だからといって惨殺シーンがこれでもかと描かれるわけではなく、殺人そのものは物語の添え物でしかありません。何かが起こる予感を感じさせつ淡々と貧乏な村の生活が語られていくのです。夜這いの文化が根強く残るこの集落では知らず知らずのうちに多くの人間が交じり合い、血が濃くなり、鬱屈は晴らされることなく積もっていきます。
結果的に事件を起こすことになる辰男を視点として据えることなく、肺病に冒された辰男を差別する女たちや、辰男におびえる血族の目を通じて村が描かれます。集落の人達は常に森におびえて暮らしていますが、おびえのない場面を見ても心からの笑顔がまったく感じられないのです。さらには文章全体の色調も暗くて、青空が背景にあることを考えることも出来ませんでした。私にとっては殺戮そのものより、世界の暗さの方が怖かったです。こんな陰鬱な仲にいたらノイローゼになっちゃうんじゃないでしょうか。
そういった暗さと迫り寄る殺戮の恐怖は、事件が決着して終幕を下ろしたあとでも胸から離れることがありません。血の色を忘れてしまえばすむホラーと違って、こちらのほうがより日常の恐怖だったのかもしれませんね。だから何となく今も気分が陰鬱なままです。淡々とした恐怖の好きな人には多分おもしろい小説だとは思うのですが、私は効果をてきめんに受けてしまって、ちょっとひきこもりたい気分になっています。
そうそう、津山30人殺しといえば忘れてはならないのが『八つ墓村』先だっての『共犯マジック』もそうでしたが、事実は小説より奇なりとは良く言ったものですね。
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